声明

私たちは大麻使用罪の創設に反対します!

2021年6月2日

大麻使用罪創設に反対する依存症関連団体・支援者ネットワーク

私たちは、薬物その他の依存症問題に関わる団体・支援者として、「大麻使用罪」の創設に反対を表明します。

●世界の薬物対策は、懲罰から「人権に基づく公衆衛生アプローチ」に転換

2010年、国連人権理事会及び第65回国連総会に、薬物と人権に関する包括的な報告書が提出。「犯罪化や過剰な法執行は、健康増進の取り組みを阻害し、スティグマを広め、薬物使用者だけでなくすべての人々の健康リスクを増大させる」として、「薬物使用に伴う害を低減する介入策(ハームリダクション)」と「非犯罪化」を推奨しました。

この流れは、2011年の「薬物政策国際委員会の宣言」(22名の世界的指導者および知識人で構成)、2015年に国連サミットで採択された「SDGs 持続可能な開発目標」、2016年の「国連麻薬特別総会成果文書」、2017年の「保健医療の場で差別を解消するための国連機関共同声明」、2018年の「国連人権理事会決議」、2019年の「国連麻薬委員会の閣僚宣言」などへと引き継がれ、強化されています。世界の薬物対策は、すでに、懲罰的アプローチから人権に基づく公衆衛生アプローチへと、大きく舵を切ったのです。

なお大麻は、国際条約「麻薬に関する単一条約」で規制されていますが、2020年に附表Ⅳ「最も危険で医療価値なし」から削除。危険度が下がり、医療的価値も認められています。

●刑罰を受けるたびに再犯のリスクが高まる

日本でも薬物問題に関し、厳罰化が必ずしも抑止力にならないとの研究結果が出ています。『刑務所出所後の覚せい剤 事犯者の再犯予測因子』に関する研究(*1)では、再犯の予測因子として、「刑務所収容期間が長い」「刑務所入所回数が多い」「仮釈放期間が短い」「精神疾患の診断」が挙げられています。また、『重症度と服役回数の関係』(*2)でも、服役回数に伴って評価尺度上の重症度が悪化し、特に社会的問題の項目での得点が悪化していることが指摘されています。これらは、刑罰を受けるたびに再犯のリスクが高まり、社会における孤立と依存症が進行することを示唆しています。

●薬物使用者=犯罪者というレッテル貼りが、社会的排除と健康被害を拡大している

実際、逮捕によって、退学・解雇などで将来や生活の糧を失い、友人や家族を失い、社会的な孤立から再使用に陥った経験を持つ人が少なくありません。また、不起訴になったにもかかわらず、就職の内定を取り消されたり、家族までもが辞職に追い込まれたり、引っ越しを余儀なくされた例もあります。このような中、大麻使用罪を創設するのは、「犯罪者」として排除される人を増やすことになります。大麻そのものの害より、犯罪化により生じる害の方がはるかに大きいと、私たちは考えます。

●「ダメ。ゼッタイ。」からの転換を!

「ダメ。ゼッタイ。」普及運動も偏見を助長しています。薬物使用者をゾンビや死神にたとえ、薬物の害を煽るポスターが自治体のコンクールで賞を与えられます。芸能人が逮捕されるとマスコミにリークされ、見せしめにされ、犯罪者として社会から排除されます。

このような状況下で、使用者や家族が通報を恐れ、相談や受診を躊躇するのは当然です。

変えなければいけないのは、この現状なのです。

大麻等の薬物の使用や単純所持を犯罪として厳罰に処すことは、問題の解決にならないどころか、取締り・司法・矯正のコストの増幅と、社会的排除につながります。

私たちは、エビデンスに基づく正しい認識のもと、薬物使用の背景にある生きづらさ等に焦点を当て、相談や治療、回復支援に力を入れる施策を求めます。そして、当事者や家族を地域で孤立させない予防啓発への転換をこそ強く望みます。

私たちは、世界の薬物対策の流れに逆行する「大麻使用罪」の創設に反対します。

参考文献:

*1Hazama & Katsuta: Factors Associated with Drug-Related Recidivism Among Paroled Amphetamine-Type Stimulant Users in Japan. Asian J Criminology, 15:1-14, 2020(*2)嶋根ら: 覚せい剤事犯者における薬物依存の重症度と再犯との関連性:刑事施設への入所回数からみた再犯.日本アルコール・薬物医学会雑誌 54:211-221,2019